これ、食べられる? by 鶴田惇(GEN世話人、信州大学医学部生)

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前回は、安国薬材市場訪問記を書かせていただきました。ところで、なぜ、日本には薬材市場がないのでしょうか? 2025年11月のGENなんでも勉強会オンライン「日本の薬草の歴史と現状」(講師・小川康さん)でも触れられていましたが、制度面の壁もあります。今回は、日本社会で薬草がどう扱われているのか、概説します。
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信州大学松本キャンパスには、ナツメが植えられています。実が成る季節になると、「これ、食べられる?」と聞かれます。ナツメの実は青いうちは青リンゴのようにみずみずしく、赤く熟すとねっとりとした味わいに変わり、とても美味しいです。

ナツメの実を乾燥させたもの(「大棗」と呼ばれます)は、漢方で緩和、鎮静、強壮、補血を目標に用いられます(※1)。つまり、薬効があります。そういうものを気軽に食べて良いのか?という疑問です。確かに、実際にたくさん食べると、お腹からじんわりとあったまってくるような感じがします。「中国ではドライフルーツのように食べているから大丈夫!」「韓国では参鶏湯に入れて食べているから大丈夫!」など経験則からの答え方は様々ありますが、今回は制度面から考えてみたいと思います。

結論から言うと、ナツメは、「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に入ります。つまり、「美味しいからどうぞ」と提供すれば食品ですが、「体に効くからどうぞ」と効能を謳ってしまえば医薬品とみなされ、無許可で扱えば法律違反になってしまいます。医食同源、というように、食品と医薬品の境界が曖昧なものはたくさんあります。以前扱った「朝鮮人参」、温州ミカンの皮の「陳皮」、最近はスナック菓子への味付けなどでも良く見かける「山椒」なども該当します。
 
実際どのように扱われているのか、「陳皮」の実例を出してみます。早和果樹園という主にミカンの果汁を製造販売している企業のホームページをみてみると、「みかんの皮は漢方の原料でもあります。効能等は当ページではお伝え出来ませんが~(以下略)」と、書かれています。これは、あくまでも食品として販売していることを示しています(※2)。一方、同時に、漢方メーカーであるツムラのホームページを見てみると、「「みかん生皮」は~中略~適切な加工を施すことにより生薬「陳皮」の原料とすることができます。」と書かれています(※3)。同じみかんの皮であっても、食品用として販売ルートに乗れば『食品』になり、適切な加工・管理基準を満たした上で製薬メーカーに原料として納入されれば、生薬『陳皮』になるということです。
 
一方、問答無用で医薬品になる、「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」というものもありまして、例えば、黄連や五味子、当帰などがあげられます。
 
黄連は、福井県などで古くから採取されている薬草で、平安時代の書物にもその名が記されています。根が黄色くて、味は苦く、いかにも医薬品です。止瀉整腸、苦味健胃等の用途で用いられます(※1)。日本森林学会が認定する「林業遺産」にも登録されています(※4)。今でも福井県が産地なのですが、はるばる栽培現場まで行っても、薬ですので、医薬品販売業の許可がない農産物直売所などでは販売できません。どう見ても薬だという名誉(?)ある指定を受けてこのカテゴリーに含まれてしまうと、一般的な市場流通は望めず、薬を扱うことのできる製薬メーカーとの繋がりのみで売買されていくことになります。昨今は高いトレーサビリティーが求められることもあり、個別の製薬メーカーと契約栽培を結んで栽培するケースも多いようです。

このような制度で管理されているため、不適切利用で健康被害がでにくいというメリットもありますが、『怪しき者には近寄らない』という風潮を生み、私たちの生活と薬草との間に距離ができてしまっているようにも感じます。植物への興味関心は、「これ、食べられる?」という素朴な疑問から始まります。薬草なので、美味しいものもあれば、とても苦いものもありますが、制度と安全性を理解した上で、自信をもって「食べられるよ」と言えるような、生きた知識と経験を身に着けていきたいものです。
 
(※1)国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「薬用植物総合情報データベース」

生薬検索-薬用植物総合情報データベース

(※2)紀州有田みかん早和果樹園HP

紀州有田みかんの早和果樹園
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(※3)ツムラHP

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