私の環境研究ことはじめ#11  学芸員を目指す人へ―学芸員の仕事・やりがい・大変さとは?(インターン生 金村菜々子)1/2

 「学芸員になりたい」「博物館で働いてみたい」「大学で学芸員資格のための授業を取るか迷っている」。この記事はそんな方にぜひ読んでいただきたい記事です。
 今回の「私の環境研究ことはじめ」では、長年にわたり博物館と自然に関わる活動を続けている高田みちよさんにお話を伺いました。高田さんは高槻市立自然博物館で魚類の飼育などに携わり、その後、主任学芸員として博物館活動に取り組んできました。さらに、2010年には、全国の小規模な美術館・博物館が情報交換や相互支援を行う「小規模ミュージアムネットワーク(小さいとこネット)」を立ち上げ、小規模ミュージアムの魅力を発信し続けてきました。こうした長年の活動が評価され、高田さんは2023年度に文化庁長官表彰を受賞されています。
 今回は、そんな高田さんが学芸員になるまでの経緯、実際の仕事内容、博物館で働く面白さと大変さ、そして学芸員資格を取るか迷っている学生へのメッセージまで、ご自身の経験を通して学芸員・博物館で働くというキャリアを紐解いていきます。

目次

「学芸員になるつもりはなかった」高田さんが資格を取ったきっかけ

-高田さんが学芸員を目指されたきっかけを教えてください。
 実は目指していたのではなく、成り行きなんですよ。大学生のころは、そもそも学芸員という職業があること自体を知りませんでした。私は生物学科だったので、当時取れる資格として身近だったのは教員免許でした。それで最初は教員免許を取ろうとしていたのですが、実験や実習と重なることもあって、「どうせ先生にはならないだろうし、やめよう」と途中で諦めました。すると、友人が、「そこまで教育関係の単位を取っているなら、学芸員という資格も取れるらしいよ」と教えてくれたんです。そこで初めて「学芸員って何?」となり、大学院に進んでから、友人と一緒に学芸員資格のための授業を受けました。
 
-その時点で、将来は学芸員になろうと思っていたわけではなかったのですか。
 全然そんなことはないです。資格は取りましたが、その後は別の会社に就職しました。退職するタイミングで高槻野鳥の会の友人から、「近所の芥川緑地資料館(現 高槻市立自然博物館)に生き物に詳しい人がいないらしいから、仕事を辞めるんだったら手伝ってあげたら」と言われたんです。それで顔を出すようになったところ、ちょうど魚の飼育を担当していた方が辞めることになって、飼育の仕事を始めました。そこから4年ほど経ったころ、今度は運営体制が変わることになり、「学芸員をやりませんか」と言われ、学芸員になりました。
 最初から学芸員を目指していたわけではなく、たまたま友達から資格のことを教えてもらって、取っておいたものが、その後に役立ったという感じです。

学芸員になったものの、「何をすればいいのか分からない」

-実際に学芸員として働き始めて、最初から仕事は順調だったのでしょうか。
 最初は、何をしたらいいのか全然分かりませんでした。私は学芸員になることを目標にずっと勉強してきたわけではなかったので、突然学芸員になって、標本をどう登録するのかといったことも分かりませんでした。幸い、大阪市立自然史博物館などの学芸員さんにいろいろ教えてもらえる環境があり、分からないことがあったら聞きに行って、一つずつ教えてもらいました。
 
-学芸員というと、研究や標本、展示に関わる時間が多いイメージがあります。
 実際には、それだけではないんですよね。当時は施設自体が長く使われていたので、設備のトラブルもありました。警備設備が壊れたり、エレベーターが壊れたり、エアコンが壊れたり。でも設備専門の担当者がいるわけではないので、みんなで頭を抱えていました。スタッフも入れ替わっていたので、最初のころは施設を運営するだけでも大変でした。企画展を増やしたい、行事をしたい、標本も管理していきたいと思っても、人も時間も足りません。1年目は標本を触っている余裕もほとんどなくて、2年目くらいになってようやく標本を作ったり、登録したり、標本に関する行事を企画したりできるようになりました。

学芸員の仕事内容は「研究職とサービス業が半々」

-お話を聞いていると、想像以上に学芸員の仕事は幅広いですね。
 学芸員は研究職とサービス業が半々のような仕事だと思っています。学芸員はそれぞれ自分の研究テーマを持って研究をしていますし、でも博物館にはお客さんが来るので、観察会などの行事や企画展の企画など、人に伝える仕事でもあります。何足もの草鞋を履かないといけないのが、日本の学芸員の特徴の一つだと思います。
-日本以外でも同じような働き方なのでしょうか。
 海外でも小さな博物館なら、学芸員が一人か二人しかいないこともあるので、日本とそれほど変わらないところもあると思います。大きな博物館になると分業されていることがあります。例えば、展示に関わるキュレーターがいて、標本を管理するコレクションマネージャーがいて、教育活動に関わる人がいる、といった体制です。

学芸員だからできる「自ら考え、形にしていく仕事」

-大変なことも多いなかで、学芸員になってよかったと思うのはどのようなところですか。
 学芸員の何が面白いかというと、今まで誰もやったことがないようなことに手を付けられるところですね。一般的な会社だったらお客さんがいて、お客さんからの注文や要望があって、それに応える形で仕事が始まることが多いと思います。でも学芸員は誰にも頼まれていないことでも、必要なことを考え、自分で計画を立てて仕事にしていくことができます。自分が必要だと思ったことを形にできる。それは面白いですね。
-展示やイベントも同じでしょうか。
 展示だったら伝えたいことを、それが来館者にどうすれば伝わるのかを考えながらつくっていきます。それで、実際にお客さんが喜んでいる姿を見ると、「あ、うまくいったな」と直接感じられます。標本を集める仕事はものすごく地味ですが、自分がつくったり整理したりした標本を、後になって研究者が調べに来て、その人の研究に役立てることがあります。そういう瞬間も、とても楽しいです。

「学芸員資格はぜひ取ってほしい」

-最後に、学芸員資格の単位を取るか迷っている学生にメッセージをお願いします。
 取れるのであれば、取った方がいいと思います。いろいろなことを勉強できますし、学芸員にならなかったとしても、これからの博物館の見方が変わってくると思います。博物館は展示や標本だけではなく、社会教育の施設でもあります。そのため、教育について学ぶことも多くあります。違う仕事に進んだとしても、役に立つことはきっとあると思います。余力があるのであれば、ぜひ取ってみてほしいですね。

インタビューを終えて―

 今回、高田さんに学芸員についてお話を伺い、私自身がこれまで持っていた「学芸員」という職業のイメージが大きく変わりました。私はこれまで、学芸員というと博物館で展示をつくったり標本を管理したりする人を思い浮かべていました。しかし実際には、研究、標本の収集・管理、企画展、観察会などの教育活動、来館者とのコミュニケーション、さらには博物館という施設を維持していく仕事まで、その役割は想像以上に幅広いものでした。
次回の後編では、高田さん自身に焦点を当てます。生き物が好きになった原点、学生時代に取り組んだ植物生態学の研究、これから実現したい自然観察のあり方、そしてGENとの出会い。「生き物を知ること、そしてその面白さを誰かに伝えること」を続けてきた高田さんの歩みを紹介します。

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