インターン生によるインタビュー、「私の環境研究ことはじめ」。前編では、高田みちよさんが学芸員になった経緯から、博物館での仕事内容、学芸員という仕事の魅力、そして学芸員資格を取るか迷っている学生へのメッセージを紹介しました。
後編では、高田さん自身の歩みに焦点を当てます。そもそも、なぜ生き物が好きになったのか、大学では何を研究していたのか、生き物のどこに面白さを感じるのか。さらに、「自然観察をもっと身近にしたい」という現在の思いと、認定NPO法人緑の地球ネットワーク(GEN)との出会いについて伺いました。
生き物好きの原点は、父と叔母
-高田さんが生き物に興味を持ったきっかけについて教えてください。
これがきっかけというほどのものは無いんです。父がずっと日本野鳥の会に入っていて、伯母もすごく動物が好きでした。伯母の家ではウサギ、インコ、犬や猫など、いろいろな動物を飼っていました。近所で有名になるくらいウサギがたくさんいたこともあります。父と伯母の影響が大きかったんじゃないかなと思います。
植物にも「生き方」がある―植物生態学の世界
-大学では植物生態学を研究されていたそうですが、そもそも植物生態学とはどのような研究なのでしょうか。
名前の通り、「植物がどういう生き方をしているのか」を調べる学問です。動物で考えると分かりやすいと思います。例えばスズメだったら、どこで繁殖して、どう育って、何を食べているのか、それを調べるのがスズメの生態学です。植物も基本的には同じなんです。ただ、植物は歩き回りませんし、特に木の場合は生きている期間がとても長いです。
「ムクロジ」を追いかける
-高田さん自身は、どのような植物を研究されていたのですか。
私はムクロジという木を研究していました。種から芽が出て、木になっていく。その最初の時期を研究していました。親木から種を採ってきて植えて、どのような水分や光の条件だと芽が出やすいのかを調べたり、山の中では芽生えがどのような場所に多く分布しているのかを記録したりしていました。

「論文には載らない小さな疑問」が面白い
-植物生態学を研究する面白さは、どのようなところにありますか。
やっぱり、対象にしている生き物のことを詳しく知っていくのは面白いですよね。例えばムクロジの種はものすごく硬いんです。でも、よく見ると丸い種の一部分に少し線が入っていて、そこからパカッと割れて芽が出てきます。では、その線がない部分はどれくらい硬いんだろう、と。手で潰せるような硬さではないので、工学部に持って行って、どれくらいの力をかけたら割れるのか破断試験をしてもらったこともあります。本当に細かいことですよね。論文には載らないような、ちまちました疑問がいっぱいあるんです。でも、そういうことを一つずつ確かめていくのも面白かったです。
自然は、人間の研究計画どおりには動かない
-反対に、生態学の研究で大変だったことはありますか。
予定通りにいかないことですね。基本的にフィールドでの研究なので、持って行った実験器具をイノシシに壊されることもあります。実験室での研究なら、最初に仮説を立てて、その仮説を検証するように進めることが多いと思いますが、自然相手だと仮説通りにいかないことがとても多いです。だから、とにかく何年もデータを取り続けるというような力技が必要になることもあります。
骨格標本から見る「生き物の裏側」
-高田さんが特に面白いと感じる生き物や生命現象、構造などはありますか?
最近は「なにわホネホネ団」という大阪市立自然史博物館を拠点に骨格標本をつくるサークル活動に参加しているのですが、生き物を解体して骨や皮、内臓などに分けていくその過程で体の中身を直接見ることができるのが面白いです。本やインターネットで見て知っていたものを実際の生き物で見て確認し、生き物の体のつくりを直接知ることができるのは楽しいですね。
-少し変な質問かもしれませんが……。一日中、標本づくりで動物の体を触ったあとって、しばらくお肉は食べたくないなとなったりしないんですか?
そう思われる方も多いのですが、むしろ逆の人も多いですよ。新鮮な個体の標本づくりだと一日中お肉を触っているような感じなので、むしろお肉を食べたくなる方もいます。鳥の標本を作ったあとに焼き鳥屋に行きたくなることもありますよ。
-逆なんですね(笑)。てっきり、しばらくお肉を見たくなくなるのかと思っていました。
やっているうちに、死体そのものに嫌悪感を感じることは減ってきました。もちろん、道端で事故に遭った動物を見たときに、何とも感じなくなるということではありません。でも、それが標本づくりの場であると気持ち悪さより「体の中はどうなっているんだろう」という興味の方が強くなるんです。人間、何でも慣れるものだなあと思います(笑)。
自然観察をもっと身近な存在にしたい
-これから高田さんが挑戦してみたいことはありますか。
「自然の楽しさを伝えたい高田組」として、もっと自然観察を普及させたいと思っています。昔だったら、近所にわんぱくなお兄ちゃんがいて、みんなで虫や蛇を捕まえたり、川で魚を取ったりするようなことがあったと思うんです。でも今は、親の世代自身が野山を駆け回って遊んだ経験をあまり持っていないこともあり、子どもたちにとって川や山に行くことが「わざわざ行く場所」になっているように感じます。だから私は、もっと簡単に参加できる自然観察があればいいと思っています。例えば、近所の集会所でやっている学習教室や、個人のピアノ教室くらいの感覚です。近所の子どもたちを集めて公園に行って、生き物を見て帰ってくる。そのくらい気軽な自然観察を提供できる人が地域にいたらいいなと思っています。生き物が好きだけれど、それを仕事にする場所が少ないという人もたくさんいます。そういう人たちが、近所の子どもたちを連れて公園へ行き、自然観察を教えて、少し謝礼をもらって生活できる、それができたら教える側にとっても子どもにとっても幸せなんじゃないかなと思っています。
「なんかずるいな、私も行きたい」から始まったGENとの出会い
-ここからはGENについて伺います。高田さんとGENとの出会いは何だったのでしょうか。
きっかけは父なんです。父がGENの黄土高原スタディーツアーに参加するようになって、実家に帰るといろいろな写真を見せながらすごく楽しそうに自慢してくるんですよ。そのうち張家口市蔚県に野鳥を見に行くようになって、日本ではなかなか見られない鳥をたくさん見て、鳥のきれいな写真を見せてもらいました。それを見ていると、「なんかずるいな。私も行きたい」と思うようになって(笑)。それで2019年の秋に、初めて参加させてもらいました。

GENだからこそ続いている「人とのつながり」
-高田さんから見て、GENの良いところはどこでしょうか。
GENなんでも勉強会オンラインなどで講師に来てくださる方が本当に幅広いので、すごい人的ネットワークがあるんだなと思っています。そういうつながりはぜひ大事に広げていってほしいです。私が関わっている団体のなかでこれだけ海外との行き来があって、中国の方々と長く関係を続けている団体はほかにあまり知りません。せっかく中国と良い関係があるので、現地を訪れたり、お互いに行き来したりする関係は続いてほしいと思っています。人とのつながりというのは、縁が切れないように大事にしてもらえたらいいですし、そのつながりの中に私もちょっとでも混ぜてもらえたらありがたいです。
インタビューを終えて―生き物を「知ること」と「伝えること」
今回のインタビューを通して感じたことは、高田さんのこれまでの活動には生き物をもっと知りたいという好奇心がずっと流れているということです。インタビュー終了後、高田さんからこんな言葉をいただきました。「若い時じゃないとできないことはたくさんあると思うので、今のうちに、やりたいなと思ったらどんどん挑戦していってください」。今回のインタビューを通して、私自身も興味を持ったことにまず触れてみること、1歩踏み出すことを大切にしようと思いました。
この記事が、学芸員や博物館という仕事だけでなく、生き物や自然について「もう少し知ってみたい」と思うきっかけになればうれしいです。







