植物屋のこぼれ話(続編)その17 by立花吉茂

松「マツ」の話
 明けましておめでとうございます。お正月の松竹梅にちなんでマツのお話です。
 マツ属(Pinus)は世界中に数多く分布しているが日本にも野生が5~6種見られる。葉が2枚くっついているアカマツ・クロマツ、5枚くっついているゴヨウマツ・キタコマツ・ハイマツ・チョウセンゴヨウなどだが、最も多いのが海岸線のクロマツ、山に多いアカマツだろう。この2種は日本中に分布しているので知らない人はまずないだろうが、この2種の雑種「アイグロマツ」をご存じの方はきわめて少ないのではないだろうか。アカマツは山間部、クロマツは海岸線に生えているが、山の中のアカマツの群落の中にクロマツを植えてある場所に、まれに見られるのだ。アカマツは幹の上の方は名前の通り赤茶色だが、アイグロマツは赤くなくて、クロマツほど明瞭な黒でもない。どちらかといえばクロマツに似ている。

アイグロマツ
 この雑種植物は1954年に岩田、草下両氏によって詳細に発表されている。アイグロマツはちょっと見て判別しがたいので、その葉を輪切りにしてルーペで見ると判別できる。マツ属植物は樹脂(マツヤニ)の通る樹脂溝があり、葉にも通っているのだが、種類によって通る位置が違うので判別できるわけだ。生の葉を安全カミソリの刃で切るとヤニが吹き出すのをルーペで見ることができる。アカマツは周辺の表皮に溝がくっついており、クロマツは葉肉の内部に見られ、アイグロマツは両方に見られる(図)。

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 アイグロマツはクロマツに近いものやアカマツに近いものがあり、アカアイグロ、クロアイグロなどと呼ぶこともある。
 筆者の実験で、クロマツの種子は塩気のある土で発芽できるが、アカマツの種子は塩気があると生えない。この性質が分布地域を決定づけているのだと思う。はたしてアイグロマツは塩気に強いのか弱いのか、まだ実験していないのでわからない。

枯れて落ちても二人連れ
 「お前百まで、わしゃ九十九まで」、「枯れて落ちても二人連れ」とか仲の良い夫婦のたとえがあるが、マツの葉は2本と5本だけではない。ヨーロッパには1本のものがあり、米国、中国には3本のものがある。1本はいつまでも独り者のたとえになるのだろうか? 3本のは「枯れて落ちても三角関係」だろうか?

マツクイムシはいなかった
 マツが枯れるのは土の中にいる線虫とそれを運ぶマツノマダラカミキリムシの連携プレーだったのだが、センチュウが木の幹に入り込むのは、マツに樹脂溝があったからだ。線虫は樹脂溝のヤニの中を遊泳できるのだが、普通の樹木にはこんなものはないからネコブセンチュウ(根瘤線虫)という線虫が柔らかい植物の根に入ることがあるだけだ。マツノザイセンチュウがマツの樹脂溝に入って、途中で樹脂溝を破って外へ出ると空気にふれたヤニが固まって水分がストップし、そこから上が枯れるのだ。マツ枯れ現象が起こる最初に枝が1本だけ枯れたりするのはそのためである。カミキリムシもザイセンチュウもマツを食うわけではない。ちょっと侵入したら枯れちゃった、というわけだ。だから私たちはマツクイムシにやられたとは言わず「マツ枯れ現象」と言っている。
(『緑の地球』119号 2008年1月掲載)

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