植物屋のこぼれ話(続編)その23 マツ枯れ現象 by立花吉茂

松枯れ現象
 先日、本紙を読んで「松食い虫がいなかったってほんとうですか?」と質問した知人がいたのでここに詳しく書くことにした。マツクイムシという名前の虫はいなかったし、毛虫のように生きたマツを食べる虫で枯れるのではなかったことは本当である。ただ、マツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウの共同作戦であるといっても「やっぱり虫が食っているんだ」と考えるらしい。マツノマダラカミキリは小型のカミキリムシで衰弱したマツの木に卵を産みつけ、そこで蛹化してやがて成虫になるが、このためにマツが食われて枯れるわけではない。弱い木に卵を産むので、そのために枯れたと考えたときもあったらしい。これについてはひとつの実験データがある。A 健全なアカマツの木、B 衰弱したアカマツの木、C 枯れたアカマツの木の3種類の木にザイセンチュウのいる丸太を巻きつけて産卵させてみた。その結果、B、Cには産卵、孵化して幼虫が樹皮の皮下を食害したが、Aには産卵をほとんどしないか、産卵してもマツヤニが多いため、ヤニに巻かれて死んでしまった。この実験の結果、人目にはわかりにくいが、生理的に衰弱、異常をおこしているマツの木に産卵することがわかった。

マツノザイセンチュウ(松の材線虫)とは!
 センチュウ(線虫)類の種類はきわめて多く、広義の線虫類は15,000種が知られ、地球全体では500,000種に達するといわれている。マツノザイセンチュウはヨウセンチュウ(葉線虫)の仲間とされ、♀は長さ0.7~1.0mm、♂は長さ0.6~0.8mmでかろうじて肉眼で見える程度の大きさである。カビを食べて繁殖できるとされ、300匹でマツの木が2か月で完全に枯れるとされる。マツノザイセンチュウはマツノマダラカミキリの体の全体に付着しており、カミキリ1匹の胴体に最も少ないもので977、最も多いもので116,000個体が付着していたとの報告がある。マツノマダラカミキリが産卵のためにマツの木にとりつくとザイセンチュウが幼虫にたかり、その成虫が他のマツの木に移っていく。こうしてザイセンチュウがマツの木の樹脂道(マツヤニの通る管)に侵入する。そして、樹脂道→樹脂細胞の破壊→樹脂分泌機能障害→樹脂流出停止→水分通道障害→萎凋→乾燥→枯死にいたる。
 
GHQの命令  
 林野庁の面白いデータがある。マツクイムシ被害量の推移の表である。1949年から1973年までのものであるが、1950年にGHQから「枯れた松の木と枯れはじめた松の木を切り倒して焼却せよ」と指令が出ているのである。林野庁が各府県に指示をだして実行され、じょじょに被害量が減っていった。1960年から伐採、焼却に代わって農薬散布(BHC)に切り替えられてからじょじょに被害量が増えはじめ、1973年には元の被害量に等しくなってしまった。その後の調査を欠くがおそらく増えつづけたと思われる。これによって農薬の空中散布を中止する府県がふえて現在にいたっている。
(『緑の地球』125号 2009年1月掲載)

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