へっぽこ猟師と魑魅魍魎 ~凍てつく夜にシシ神?を見た話~ by 稲垣文拓(GEN監査)

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 シシ神とは、有名なアニメ“もののけ姫”の中に出てくる宮崎駿が作り出した想像の神です。なので、日本に居座る神々の世界には鎮座されないものではありますが、のような姿の神は居ると小生は信じています。それは、いつかの凍てついた夜のこと。ワンコ二匹と散歩に出かけた小生の目の前に、そのシシ神が現れたのです。それからというもの……。へっぽこ猟師の記録です。
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 その土地の獣たちの本領は、夜になるとわかります。日暮れとともに、カラスがねぐらに帰っていき、そっと暗闇の帳が下りたころ、どこからともなくモノの気配が動き出すのです。季節によって、時間によっても違います。ちょうど人が寝静まったころ、魑魅魍魎の宴会が始まるのです。
 
 小生の家には2匹のワンコ(猟犬の血筋)がいます。このワンコたちが、自然の中の小生の知らない世界を教えてくれる良き役目をしてくれます。それに、暗闇でも一緒に歩けば、怖くはないのです。このワンコたちと夜の散歩に出かけると、野生動物の驚くほど活発な動きに出会うことができます。

 夜というのは、野生動物にとって一つの、安心して活動できる空間を提供しているのかもしれません。霧や、雨降りも同じこと。明るいときは人目を避けておとなしくしているイノシシやニホンジカが、暗闇の中で、意外と活発に、大胆な行動をしています。やがて、太陽が昇って明るくなった時、人は、畑の無残な野菜の姿を見つけ、そこでモノノケの宴会があったことを知るのです。
 
 こんな体験をしました。溝の土を掘り起こしているイノシシたちに近づいて、そっと木のように立っていると、足元を何気もなく彼ら母子がブウブウ鳴きながら通り過ぎていきます。また、物音がしたらシカの群れだったりします。キラキラ光る二つの目がゆらゆら、こちらを伺っています。一体、何頭いるのでしょう? キュンという声とともに、その光が、一列になってピョンピョン走っていきます。寝れないときに、シカが何頭~と数えると、寝られそう。
 
 ある時、柵に囲まれた畑の横を歩いていると、若いシカに会いました。懐中電灯の明かりに驚きもせず、柵沿いにこちらに向かってトコトコと走ってきて、あやうく衝突しそうになりました。角のあるオスジカでなくてよかったです。そんなシカが居るところに車で近づいてライトを照らしても、声をかけても、耳は声のほうへ傾けていながら、一向に逃げる気配はありません。
 
 一方、空から。高い杉の木にとまったフクロウは、好奇心旺盛な鳥です。彼らの羽ばたきは無音です。谷間を歩いていると ホ~、ゴロスケホ~ という声がこだまします。あれ、この枝にも、あの木の上にも、我々が歩いている電信柱の上からも聞こえます。一体この谷に何頭いるのかしら?と思ったら、実は一頭のフクロウが散歩についてきているらしいのでした。山の夜はモノの気配でいっぱい、魑魅魍魎が騒がしいのです。
 
 ある年、時期は2月の凍てついた夜、真夜中の散歩にでかけました。農道の脇の草も霜が付いてキラキラ光っています。とても静かで、私たち3匹の草を踏む足音だけが耳に入ります。ザクッ、ザクッ、ザクッ。あれ? 歩調が合わない足音が混じっているような気がして、耳をそばだてると、ゆっくりとそして重たく草を踏む足音が混じっています。ワンコたちの歩みが止まりました。立ち止まって一点を見ています。私も足を止めました。ザクッ、ザクッ。まだ足音は続きます。ワンコが見つめる方向に顔を向けました。空には満天の星。その下に私の耕作している田んぼの土手。その土手を真っ黒なシルエットが、土手の下を歩く私たちの行く方向へ動いてきます。ザクッ、ザク。やがて足音は止まりました。そこに見たものは、大きな三段の角を持つオスジカでした。そのシカが、こちらに気付いて、顔だけ私たちのほうへ向けて止まりました。シルエットになったその大ジカが、両目でしっかりこちらをにらんでいます。ワンコも吠えることも追うことも忘れてそれをただ見つめているだけです。濃紺の空、夥しい星が瞬きます。それが、天に突きさすようにのびた角の間から噴き出して、天空一面に放散しているようです。私たちは、大ジカと対峙しながら、どれほどの無言の時間を過ごしたでしょうか? その神々しさ、これこそ自然の神、あのシシ神なのではないかと思いました。一緒にいたワンコも何かを感じ取っていたのに違いありません。ほんのひと時だったかもしれません。シシ神は、動けない私たちの横を、また顔を上げてゆっくりと通り過ぎ、田んぼの奥に消えてゆきました。
 
 その時のシシ神のふるまいを、私はこう理解したのです。
「そのまま行きなさい」と。
不思議なことに、次の狩猟シーズン、なぜか、獲物を待っている私の目の前に、何度も何度も、シカの群れが出てくるようになったのです。シカ、イノシシだけでなく、猟犬しかり、イタチやタヌキまでも、私の近くまで寄ってきて、しばしゆっくりしていくのです。ありがたいことに、シカやイノシシの捕獲成績もぐっと上がりました。
 
 どうも、あの2月の星空に出会ったシシ神が、野生の懐の入り口へ、私を誘ってくれたようなのです。山はまだまだ怖いけれど、その奥にある宝物を探して、今日もへっぽこ猟師はワンコたちを連れて、山にはいります。

小生の捕獲した100キロの大シカ。山から4人掛かりで下すのは一苦労でした。角と頭蓋骨は、今も記念に部屋に飾っています。
散弾銃で狙撃、獲物を逸れて倒れた木に当たったスラッグ弾痕。散弾銃だから銃口から弾がばらけて飛ぶイメージがありますが、シカ、イノシシなどの大物にはこのスラッグ弾を使います。

 本の紹介をします。
「下野猟師伝 聞き書き 猟師たちの物語」
丸山美和著/栃木猟友会協力/随想舎/1,980円(税込)
イノシシだけでなく、クマもサルも食べてたんですね。

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